就労支援機関における効果的な支援に関する調査

2017.6.7

  • 雇用
  • 意識調査
  • 障がい者
対象障がい:
  • 身体
  • 精神
  • 発達
  • 知的

実施の背景

昨今、障がい者の就労支援機関の事業所数は年々増加傾向にあり、民間企業の障がい者雇用人数も増加の一途をたどっています。(※事業所数の推移や障がい者の雇用人数は「就労支援機関と民間企業における障がい者雇用人数の推移」をご覧ください。)
そのような中、就労支援機関は利用者の期待に応え、効果的な就労支援を実践することで、利用者により必要とされる存在になることが求められています。そこで、これらの就労支援機関に対し、障がい者がどのような支援を望んでいるのかを明らかにするため、アンケート調査を実施しました。

  • 対象者

    20~60代の障がい者

  • 実施方法

    インターネット調査

  • アンケート期間

    2017/1/26~2/1
    有効回答者数:470名

<アンケートからの考察 調査Reportより一部抜粋> [1] 『身体障がい者』 『知的障がい者』 『精神障がい者』 『発達障がい者』 のいずれにおいても、
最も大切と回答された支援内容は「支援機関の職員が、あなたの障がいの特性を把握している」であった。
※支援内容のカテゴリおよび項目に関しましては、「就労支援機関における支援内容へのニーズ」をご覧ください。 [2] 『身体障がい者』 よりも、その他の障がいのほうが、「就労支援機関における効果的な支援内容」に対する
ニーズが高い傾向が見られた。
※今回の調査では、就労支援機関における支援内容へのニーズの箇所に記載した5つのカテゴリ、および22項目を「就労支援機関における効果的な支援内容」と定義しました。 [3] 就労移行支援事業所を 『現在利用中の方』 『過去に利用経験のある方』 のほうが、『利用経験のない方』 よりも、
「就労支援機関における効果的な支援内容」 に対するニーズが高い傾向が見られた。

就労支援機関と民間企業における障がい者雇用人数の推移

就労支援機関における支援内容へのニーズ

以下のQ1~Q22について「1.全く必要と思わない」~「5.必要と思う」までの5件法で回答を求めました。さらにそれぞれに1点~5点を与え、得点化しました。

項目 平均(標準偏差)
カテゴリ① 就労実現のための本人と支援者の協働的本人理解 19.94(4.70)
Q1 支援機関の職員が、あなたの障がいの特性を把握している 4.35(1.01)
Q2 面談などを通して、あなたの希望や状況について話を聞き、お互いの考えを話し合う 4.39(0.98)
Q3 支援機関内で多様な訓練メニューを実施し、また3ヶ所以上で実習を設定したうえで、それらの体験を一緒に振り返る 3.65(1.22)
Q4 状況や目標に合わせた課題が設定され、その達成度合いやプロセスを職員が一緒に振り返る 3.84(1.24)
Q5 他の利用者・家族・主治医・実習先・職場の同僚から、あなたの様子や状況を把握し、あなたとその内容を共有する 3.70(1.28)
カテゴリ② 希望実現のための本人・企業・支援者の協働的本人/企業理解 21.27(4.48)
Q6 あなたが就職したい企業に対し、障がい者雇用の経験の有無や、実務上関わる人が誰かを確認し、あなたと共有する 4.27(1.04)
Q7 働き続けることができる職場かどうかを、あなたや、あなたが就職したい企業と一緒に検討する 4.40(0.99)
Q8 あなたと就職先企業との相互理解を促進するための計画を、あなたと企業と一緒に立てる 4.25(1.03)
Q9 就職先企業において、部署や業務を複数体験し、あなたに合った職場環境を一緒に考える 4.17(1.10)
Q10 就職後に職場で葛藤が生じた際は、その葛藤が生じた過程をあなたと企業と一緒に振り返り、解決を試みる 4.18(1.08)
カテゴリ③ 希望実現のための本人・家族/関係者・支援者の協働的本人理解 17.32(5.87)
Q11 必要に応じてあなたの家族や他の支援機関と連絡を取り合い、相談にのる 3.76(1.22)
Q12 あなたの家族や他の支援機関に、あなたの就職についての考えなどを聞き取る 3.52(1.31)
Q13 あなたと家族と一緒に、支援計画の作成・振り返りを行う 3.20(1.40)
Q14 あなたの家族に、あなたの障がいの特性や、得意/不得意な環境・配慮事項を伝える 3.42(1.41)
Q15 あなたの家族に、相談にのることができると伝える 3.42(1.36)
カテゴリ④ 本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働 19.53(4.98)
Q16 支援の際に、あなたと合意形成を図りながら、安心感のある雰囲気を作る 4.19(1.07)
Q17 成功体験や達成感が得られる場面を多く設定する 4.03(1.16)
Q18 基本的に支援全体を通して肯定的な言葉を使用し、良いところを評価する 3.17(1.26)
Q19 支援機関の職員のみではなく、家族や関係者とあなたの成功体験を共有する 3.50(1.30)
Q20 あなたと境遇が近い事業所の先輩などの成功体験を、あなたへ共有する 3.87(1.17)
カテゴリ⑤ 働くイメージとライフスキルの向上 7.22(2.34)
Q21 働くことは、あなたや社会にとってどのような意義があるのかを一緒に確認する 3.86(1.21)
Q22 職場の人や家族・親戚・友人などの付き合い方や、お金の使い方、余暇の過ごし方などを一緒に考える 3.36(1.39)

「就労支援機関における効果的な支援内容」に対する障がい別のニーズ

※「P<0.05」は、「差がないといえる確率は5%より小さい」≒「差があるだろう」ということを意味しています。

カテゴリ①:就労実現のための本人と支援者の
協働的本人理解

障がい者総合研究所

カテゴリ②:希望実現のための本人・企業・支援者の
協働的本人/企業理解

障がい者総合研究所

カテゴリ③:希望実現のための本人・家族/
関係者・支援者の協働的本人理解

障がい者総合研究所

カテゴリ④:本人の自己肯定感/自己効力感を
高めるための協働

障がい者総合研究所

カテゴリ⑤:働くイメージとライフスキルの向上

障がい者総合研究所

「就労支援機関における効果的な支援内容」に対する就労移行支援事業の利用経験別のニーズ

※「P<0.05」は、「差がないといえる確率は5%より小さい」≒「差があるだろう」ということを意味しています。

カテゴリ①:就労実現のための本人と支援者の
協働的本人理解

障がい者総合研究所

カテゴリ②:希望実現のための本人・企業・支援者の
協働的本人/企業理解

障がい者総合研究所

カテゴリ③:希望実現のための本人・家族/
関係者・支援者の協働的本人理解

障がい者総合研究所

カテゴリ④:本人の自己肯定感/自己効力感を
高めるための協働

障がい者総合研究所

カテゴリ⑤:働くイメージとライフスキルの向上

障がい者総合研究所
アンケート回答者

対 象 者   : 障がい者総合研究所のアンケートモニター、および
          株式会社ゼネラルパートナーズの就労移行支援事業の利用者(有効回答数470名)
アンケート期間 : 2017/1/26~2/1
実 施 方 法 : インターネット調査

身体障害
知的障害
精神障害
発達障害
就労移行支援事業を利用中
過去に就労移行支援事業を利用した経験がある
これまでに就労移行支援事業の利用経験はない

増加する支援機関数と利用者数に対する、本調査の意義と今後への期待 ~有識者のコメント~

2006年の障害者自立支援法(現、総合福祉法)の制定とその実施は、それまでの体系・制度の設計根拠でもあった「障がい種別」毎に異なる事業等を積み上げていくという基礎概念を覆し、新たに「人が望む基本的な支援機能」をベースに必要な体系づくりをしよう、との転換が明確に打ち出されたものであったと見るべきであろう。

図らずも、この新たな制度設計は「障がい者就労支援」というカテゴリーにも大きな影響を及ぼしたのだが、同法が成立する2年前(2004年)に「今後の障がい保健福祉施策について(改革のグランドデザイン)」という極めて視野の広い画期的な構想が検討されていたことを知る方は意外と少ない。

それによれば、当時の基本的な視点は3つ。1つは「対応は市町村という身近な領域で、年齢・障がい種別・疾病等を超えた一元的な支援体制の充実」、もう1つは「個々のニーズと現状の適性に応じた自立支援の確立と社会貢献への側面的応援」であり、さらに「地域における必要なサービス体制に供する質の高い事業体の確保」を伴って、のちの法体系の機軸への経緯をたどることになる。これは言い換えれば専門体系から、地域全体で支えるインクルージョンプランへの転換であったのだと理解すべきである。

ここを出発点とした結果、本調査の原点とも言うべき「地域における就労支援の増大」に繋がっていくのだが、何よりも「現状における当事者の理解や、働くイメージ、自己肯定感などの一連の個人の想い」を取り上げたところに調査の秀逸さが感じられる。まさに時代は「当事者家族が優良な地域支援を選択する」ところに来ているのであり、選ばれた事業体は自ずからその力量を問われることにもなる。

ただし、ここで勘違いがあってはならないのかもしれない。本調査のまとめで明らかになったことの一つである「支援者に自分の障がい特性を十分に把握してほしい」という願いは、画一的な障害手帳の種別とか疾病の内容とかいう類の願いとは明らかに違っている。「ただただ、今の自分の取り巻く現状や立ち位置、漠然とした不安感、将来への不透明感などを支援者と共有したい…」これが彼らの叫びなのではないかと思うことがある。

詳細な分析項にも「面接などを通じて希望を聞き取り、支援側も現状で可能なことをしっかり伝える」、「働き続けるための検証を、就職先の企業も含めて多角的に検討し続ける」などが調査結果から伺えるとあり、それが「過去に福祉サービス等を利用した経験がある方」から多く挙がっていることも特徴的であり、これらは実は「支援機関・者が旧来から行ってきた、ごく普遍的な当たり前の支援」のことを指しているのだと気づかされる。また、彼らが「障がいではなく、障がいを伴う私自身を見て」と叫んでいるのだと、地域支援者はいち早くそこに気づかなければならないとも感じる。

本調査の結論項には極めて重要な課題がもう一つ含まれているのも興味深い。それは「就労継続に必要な自信の獲得が重要」とされている箇所である。支援機関の自己満足ではなく、障がい当事者の満足感を高めるための支援技術とはいかなるものか、今後の研究調査にぜひ期待したい部分でもある。

前野 哲哉 氏

前野 哲哉

大阪市障がい者就業・生活支援センター所長

重度心身障がい者支援学校に勤務後、障がい者能力開発施設で職業指導員として、主に障がいのある成人期の方の就労支援を担当。2006年に省庁合併で厚生労働省がスタートした折に創設された「障害者就業・生活支援センター事業」の第1号就業支援ワーカー(大阪市)。
2008年からは、厚生労働省就労支援専門官として、「障害者自立支援法(現、総合福祉法)」の制度見直しに関与。NPO)大阪障害者雇用支援ネットワーク、NPO)全国就業支援ネットワークの理事を歴任。現在は、古巣の「大阪市障がい者就業・生活支援センター」で所長を務める。

[主な著書]
・「就労支援サービス-サービス管理責任者の地域展開のために-」(サービス管理責任者都道府県就労支援分野研修のあり方検討会編:Sプランニング)、2006年
・「精神保健福祉白書」(中央法規)、2007年
・「社会福祉士養成講座テキスト<18.就労支援サービス>」(中央法規)、2008、2009年

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