障がい者アスリートの雇用に関する調査
2016.12.19
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民間企業では従業員数の2.0%以上の障がい者を雇用することが法律で義務付けられています。そして、平成30年には改正障害者雇用促進法の施行が予定されており、精神障がい者の数が法定雇用率の算定基礎に追加されることから、その率はさらに引き上げられる見込みです。こうした中、これまでと同様の手法では採用が難しいと感じる企業も増えており、多くの企業が活動の見直しを検討しているようです。そこで今回は、新たな採用手法の一つとして、また東京パラリンピックの開催でも注目を集めている「障がい者アスリートの雇用」について、各企業の意識や雇用する上での工夫などを明らかにする為、調査を実施しました。
調査の概要
①アンケート調査
調査対象 : 人事担当者(障がい者アスリートの雇用実績がある企業、または、障がい者アスリートの採用を検討している企業)
有効回答数 : 16名
②障がい者アスリートの募集求人の分析
分析対象 : 株式会社ゼネラルパートナーズの「障がい者アスリートの人材紹介サービス アットジーピーアスリート」における募集求人
分析件数 : 40件
③インタビュー調査
調査対象 : 日本メドトロニック株式会社 人事担当者および障がい者アスリート
調査結果
<サマリー>
[1] 障がい者アスリートの雇用に対して、企業の期待が最も高いのは「社内の一体感を高めること」、次に「障がい者雇用を進める上で、新たな層を採用したい」「CSR」が続く
[2] 障がい者アスリートの雇用においては、半数以上の企業が週5日勤務での就労形態を検討しており、就業時間や残業時間を調整することで日々の練習時間を確保できるよう配慮している場合が多い
[3] 大会や代表合宿への参加時の勤怠の取り扱いについては、半数以上の企業が出勤日として認定しているが、遠征などの活動費を補助している企業は40%程に留まっている
※より詳細な調査結果については、「調査Report」をご覧ください
なぜ障がい者アスリートを雇用、または採用を検討しているのですか? 各項目への期待の有無を教えてください
※複数回答可
障がい者アスリートの雇用、または採用の検討はどのような形で進めていますか?
≪アスリートの競技レベル≫ ※複数回答可
≪就労形態≫ ※複数回答可
≪残業配慮≫
■不可
■その他
≪その他≫ ※複数回答可
インタビュー調査
日本メドトロニック株式会社
取り組みのポイント
- 競技のオンシーズン、オフシーズンに合わせて出勤日と業務量を調整
- アスリート本人のキャリアに対する考えを踏まえ、担当業務をマッチング
- アスリートとしての活動も仕事の一環と考え、年間の活動費のうち一定額を補助
初めての障がい者アスリートの採用、必要な配慮や体制はアスリートに合わせて整備
Q:現在の障がい者雇用の状況について教えていただけますか?
(肥後さん)現在の雇用数は約15名です。弊社の業務には、営業職や病院を訪問し機器の使い方をサポートする業務など様々あるのですが、障がい者の方々には主に事務職を担当していただいています。
人事本部 三上勇輝さん
(電動車椅子サッカー 日本代表候補)
人事本部 シニアHRマネジャー
肥後忠典さん
パラリンピックを機に進む障がい者アスリートの雇用 ~学識者からのコメント~
1998年長野パラリンピックを契機として、日本の障がい者スポーツの競技志向が高まるにつれ、障がい者アスリートの雇用が少しずつ始まったと思われる。しかし当時、オリンピアン同様に正規雇用、出社義務無し、遠征費・練習費用・トレーナー費用の実費支給などの条件で雇用される者は、陸上・水泳・車椅子バスケ・アルペンスキーなど、ごく一部のいわゆるメジャー競技のアスリートに限られた氷山の一角に過ぎない状況であった。現在では、2020年東京オリンピック・パラリンピックの追い風もあり、格段に障がい者アスリートの雇用が進んできている状況である。そしてその拡大傾向とともに就労形態も多様化している。
まず、世界レベルの障がい者アスリートは、パラリンピックや世界選手権などでの活躍もあり、マスメディアへの露出が多いことから、会社の広告塔、企業イメージの高揚、社会的貢献の位置付けとして雇用されている。先述のオリンピアンと同様の就労形態の障がい者アスリートも増えてきている傾向がある。なお、オリンピアンは早ければジュニア期から大企業と契約を交わしている場合が多いが、パラリンピアンはマスメディアへの露出があってからでも、競技によっては専属雇用契約を結ぶことが可能と思われる。
次に調査にあったとおり、企業の半数以上が採用を検討している、日本あるいは地域でのトップレベルの障がい者アスリートの雇用であるが、実際には、この層の障がい者アスリートが最も多い。彼らは練習環境を最優先に考えるより、むしろ現役引退後の社会人・企業人として安定した雇用を求める傾向があると思われる。現役時については、勤務時間の弾力的な運用や公式試合・練習・遠征などの出勤扱い程度の対応で、引退後は、ほぼ通常の社員と同様の就労形態で雇用できると考えられる。したがって、これらの層の雇用においては、障がい者アスリート本人が自己の将来設計についてしっかりと見通しを持っているとともに、そのライフスタイルが合っているかどうかを企業・障がい者アスリートの双方で判断する必要がある。
最後に、比較的競技成績が低い障がい者アスリートの雇用であるが、この層は通常の就労形態で対応できると思われる。日々の練習のための定時退社や残業が無いこと、あるいは試合のほとんどが土・日曜日に開催されるため、その日に休むことが確保される程度の対応で十分であると思われる。
障がい者アスリートの雇用は、法定雇用率の達成に寄与することは無論であるが、いわゆる体育会系の強みを持つ人材を雇用する側面もある。インタビュー調査でも触れられていたが、彼らは競技生活の中で、厳しい練習、上下関係、規則正しい生活リズム、我慢強さ、協調性、一つのことをやり抜いてきた経験があり、これらのことは特に現代の若い世代の中で希少価値的存在とも言えよう。
井上 明浩 氏
金沢星稜大学 人間科学部
スポーツ学科長 教授
上越教育大学大学院 学校教育研究科 生活・健康系コース 修了(障害者スポーツ論)
県立高校、養護学校、保育専門学園、ろう学校を経て、2008年より現職。
[主な指導歴]
障がい者を中心とする陸上競技愛好クラブチーム「春風クラブ」を創設し、代表監督を務める。日本知的障害者陸上競技選手権大会でマイルリレーにおいて前人未踏10連覇達成。また、日本記録樹立や世界選手権でメダルを獲得した選手を輩出。シドニーパラリンピック日本選手団コーチをはじめ、世界選手権、ワールドカップなどの監督、団長など、過去20数回日本代表役員を歴任。
[主な著書]
「障害者スポーツ指導書シリーズ②
障害のある人々へのスポーツ支援」(2008.6)
日本障害者スポーツ指導者協議会
[直近の学術論文]
・障害者スポーツ団体と中央競技団体との連携に関する研究 デンマークにおける現状報告(2016.8)
・地域に根差したアダプテッドスポーツの普及・推進を目指して(2016.6)
・障害者スポーツの組織形態と機能に関する研究 デンマークの現状から(2016.3)