障がい者雇用への取り組みに関する事例研究

2016.6.22

  • 雇用
  • 事例研究
  • 企業
対象障がい:
  • 身体
  • 精神
  • 発達
  • 知的

考察

(2)多面的な評価をもとにした採用活動

2つ目の要素として、多面的な評価をもとにした採用活動であることを挙げます。特に精神障がい者の採用については、書類選考や面接といった従来の選考方法だけで、その方の症状や必要な配慮を理解することは難しいといえます。面接の日はたまたま調子が良かったということや、ご自身が症状を正しく理解できておらず、過大評価した内容を面接で伝えることもあります。そのため、入社後に「思っていた人材とは違った」ということが発生しやすくなります。

サイトサポート・インスティテュート社の採用方法は、このような懸念を払しょくするやり方だといえます。就労移行支援事業所と連携すると、ご本人からだけでなく、連携先の事業所の職員によるアセスメントについても知ることができますので、面接という限られた時間に得られる以上の情報をもとに選考の判断ができます。就労移行支援事業は毎日通所するサービスのため、職員は一人一人のことをよく理解しています。例えば、体調や気持ちの波の状況、障がい特性と必要な障がい配慮、PCスキルなどの作業能力、コミュニケーション能力、仕事観を含めた価値観など、採用のマッチングでは欠かせない情報を保持しています。
就労移行支援事業所は全国で3,000ヶ所以上ありますが、対象としている障がい、プログラム内容や支援内容は千差万別です。サイトサポート・インスティテュート社のように、自社の採用に適した就労移行支援事業所を見つけるというプロセスも重要でしょう。

また、サイトサポート・インスティテュート社では実質的な選考の前に実習の受け入れを行っています。実習については、配属予定部署のみで行うことが一般的ですが、同社では複数の部署で行なっています。これは、より多面的に実習生を理解することが目的だと思いますが、実習生にとっても企業理解を促進し、就労イメージがより具体化するため、ミスマッチを軽減できるでしょう。

実習前の面談の際は、独自のアセスメントシートを使いながら、障がいについての話だけではなく、服薬管理の方法や通院歴など詳細まで確認しています。精神障がい者の場合、入社後に定着して安定的に働くためには、自身の症状を理解して、自己管理できることが必要不可欠です。障がい者の面接の際にどこまで聞いてよいかを悩むという話をよく聞きますが、同社のように詳細まで確認することは、定着しやすい人材の採用に繋がると考えます。また、障がい者にとっても、自身の障がいについて細かく聞かれることは、抵抗を感じるというよりも、自分のことを理解しようとしてくれていると肯定的に捉えられることが多いようです。

(3)障がい者の成長促進・キャリアパス

障がい者雇用を成功させるための3つめの要素として、障がい者の成長促進・キャリアパスを挙げます。
多くの企業が重要性を感じながらも着手できていないことの一つに、障がいのある従業員への成長促進やキャリアパスの提供があるのではないでしょうか。障がい者総合研究所の調査(2016年3月「キャリアアップに関するアンケート調査」)では、障がい者の8割がキャリアアップを望んでいるという結果が出ています。しかしながら、障がい者を雇用する企業の多くは「安定」を優先し、障がいのある社員に負荷をかけることを避ける傾向があります。そのため、障がい者の多くはキャリアアップを望んでいるものの、その希望が十分に叶えられていないという状況が発生しています。また、先の調査結果では、仕事の幅を広げたいという希望が強く見られました。それを現状の不満の裏返しだと推測すると、職域が変わらない職場が多いといえるかもしれません。

サイトサポート・インスティテュート社では、長く活躍してもらうためには職域拡大が必要だと考え、それをご本人にも伝えています。キャリアアップの可能性を示唆することは将来への不安を払拭し、現状の仕事へのモチベーションを高めることに有効だと考えます。

マイナビ社では障がいのある社員の成長を促進するために、目標設定を行なっていますが、先の見通しを持つという役割も果たしているのではないかと考えます。また、目標に関する打ち合わせを上司と定期的に行うことは、仕事に対する達成感を得ることや自身の成長を実感することに繋がるでしょう。同社のように、一定の成果を評価されると、他の部署への配置転換の可能性があり、昇給・昇格などキャリアの方向性を描けること、さらにそれが一つの方向性だけではなく、複数の選択肢があることは、障がい者が先の見通しをもち意欲的に働くことに寄与しているといえます。

最後に

2社の事例をもとに障がい者雇用の成功要素について考えました。両社に共通することは、障がい者の雇用に関する戦略が採用から定着まで一貫性があること、障がいのある社員にとっても健常者の社員にとっても、良い形で進められていることだと感じました。これらの成功事例を参考にしていただき、企業で活躍する障がい者がさらに増えていくことを願っています。

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